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アルキメデスの漸化式を徹底的に掘り下げる

問題
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アルキメデスの漸化式を徹底的に掘り下げる

本記事は 円周率の小数点ってどうやって導き出していたの?GPTに説明してもらった の補足記事である。元記事では「多角形の辺数を倍にする漸化式」として次の2式を結果だけ提示した。

$$b_{2n} = \frac{2\,a_n\,b_n}{a_n + b_n} \tag{①}$$

$$a_{2n} = \sqrt{a_n \cdot b_{2n}} \tag{②}$$

ここで $a_n = n\sin(\pi/n)$ は直径1の円に内接する正$n$角形の周長、$b_n = n\tan(\pi/n)$ は外接する正$n$角形の周長である($n\to\infty$ でどちらも $\pi$ に収束する)。本記事ではこの2式を複数の角度から徹底的に分析する。


1. 三角関数による代数的証明

準備:変数の置き換え

$x = \pi/n$ とおく。このとき $a_n = n\sin x$、$b_n = n\tan x$ であり、示すべき式は

$$b_{2n} = \frac{2\,a_n\,b_n}{a_n + b_n} \stackrel{?}{=} 2n\tan\frac{x}{2}, \qquad a_{2n} = \sqrt{a_n \cdot b_{2n}} \stackrel{?}{=} 2n\sin\frac{x}{2}$$

の2つになる。

外接側(調和平均)の証明

調和平均式に $a_n = n\sin x$、$b_n = n\tan x$ を代入する。

$$\frac{2\,a_n\,b_n}{a_n + b_n} = \frac{2 \cdot n\sin x \cdot n\tan x}{n\sin x + n\tan x}$$

$n$ を約分:

$$= \frac{2n\sin x \cdot \tan x}{\sin x + \tan x}$$

$\tan x = \sin x / \cos x$ を代入:

$$= \frac{2n\sin x \cdot \dfrac{\sin x}{\cos x}}{\sin x + \dfrac{\sin x}{\cos x}} = \frac{\dfrac{2n\sin^2 x}{\cos x}}{\sin x \cdot \dfrac{1 + \cos x}{\cos x}}$$

分子・分母の $1/\cos x$ を約分:

$$= \frac{2n\sin^2 x}{\sin x\,(1 + \cos x)} = \frac{2n\sin x}{1 + \cos x}$$

ここで鍵となる半角の公式を適用する。

$$\tan\frac{x}{2} = \frac{\sin x}{1 + \cos x} \tag{③}$$

$$= 2n\tan\frac{x}{2} = b_{2n} \quad \checkmark \quad \text{(式①が成立)}$$

内接側(幾何平均)の証明

いま $b_{2n} = 2n\tan(x/2)$ が確定したので、幾何平均に代入する。

$$\sqrt{a_n \cdot b_{2n}} = \sqrt{n\sin x \cdot 2n\tan\frac{x}{2}}$$

$\sin x = 2\sin(x/2)\cos(x/2)$(倍角の公式)と $\tan(x/2) = \sin(x/2)/\cos(x/2)$ を代入:

$$= \sqrt{n \cdot 2\sin\frac{x}{2}\cos\frac{x}{2} \cdot 2n \cdot \frac{\sin(x/2)}{\cos(x/2)}}$$

$\cos(x/2)$ を約分し整理:

$$= \sqrt{4n^2\sin^2\frac{x}{2}} = 2n\sin\frac{x}{2} = a_{2n} \quad \checkmark \quad \text{(式②が成立)}$$

使った恒等式の一覧

恒等式 使った箇所
$\tan x = \sin x / \cos x$ 調和平均の計算開始
$\tan\dfrac{x}{2} = \dfrac{\sin x}{1 + \cos x}$ ← 式③ 調和平均の最終ステップ(核心)— 式①の証明に直結
$\sin x = 2\sin\dfrac{x}{2}\cos\dfrac{x}{2}$(倍角公式) 幾何平均の展開
$\tan\dfrac{x}{2} = \dfrac{\sin(x/2)}{\cos(x/2)}$ 幾何平均中の $\cos(x/2)$ 約分

なお $\tan(x/2) = \sin x/(1+\cos x)$ は、$\sin x = 2\sin(x/2)\cos(x/2)$ と $1+\cos x = 2\cos^2(x/2)$ から直接導ける。この式は「半角の正接を全角の正弦と余弦で表す」橋渡しであり、両証明で中心的な役割を果たす。


2. 幾何学的な意味

外接側が「調和平均」になる理由

外接正$n$角形と外接正$2n$角形の関係を、図の上側の一辺で考える。円の中心を$O$、上側の接点を$T$とし、灰色の線分$AB$を外接正$n$角形の一辺、赤色の線分$PQ$を外接正$2n$角形の一辺とする。

A P T Q B O 灰色:外接正n角形の一辺 AB 赤色:外接正2n角形の一辺 PQ

灰色の線分 $AB$ が外接正$n$角形の一辺、赤色の線分 $PQ$ が外接正$2n$角形の一辺

この図では、$AB$ と $PQ$ はどちらも同じ接線上にあり、いずれも円に点 $T$ で接している。ただし、$PQ$ の方が短く、外接正$2n$角形の方が外接正$n$角形より円に近いことが分かる。

ここで、$\angle TOB=\theta$ とすると、外接正$n$角形では半辺の長さが

$$\frac{|AB|}{2}=r\tan\theta$$

となる。一方、外接正$2n$角形では中心角が半分になるので、半辺の長さは

$$\frac{|PQ|}{2}=r\tan\frac{\theta}{2}$$

また、同じ角$\theta$に対応する内接正$n$角形の半辺の長さは

$$r\sin\theta$$

である。したがって、周長を内接側を $a_n$、外接$n$角形側を $b_n$、外接$2n$角形側を $b_{2n}$ と書けば、

$$a_n=2nr\sin\theta,\qquad b_n=2nr\tan\theta,\qquad b_{2n}=4nr\tan\frac{\theta}{2}$$

となる。ここで式③を $\theta$ に適用して整理すると、

$$b_{2n}=4nr\tan\frac{\theta}{2}=4nr\cdot\frac{\sin\theta}{1+\cos\theta}=\frac{2a_nb_n}{a_n+b_n}$$

を得る。これは式①に他ならない。つまり、外接側の新しい周長 $b_{2n}$ は、内接側の周長 $a_n$ と、元の外接側の周長 $b_n$ の調和平均になっている。

このことは、辺数を2倍にすると、外接多角形の各辺が同じ接線方向のまま円に近づき、その縮み方が半角公式によってちょうど調和平均の形に表されることを意味している。

内接側が「幾何平均」になる理由

O A B M 弧AMBの中点Mへの弦AM・MBが新しい2n角形の辺 △OAM で AM² = OM·(OM – OA の関係) → 幾何平均

内接側は、弧$AB$の中点$M$(円上)に対して$AM$が$2n$角形の一辺になる。$O$を中心とし$OA=OM=r$(半径)とすると、$A$, $M$ はいずれも円上にある。弦$AM$の長さを求めるために三角形$OAM$を考えると、$\angle AOM = \pi/n$($n$角形の中心角の半分)。余弦定理から

$$|AM|^2 = r^2 + r^2 – 2r^2\cos\frac{\pi}{n} = 2r^2\!\left(1-\cos\frac{\pi}{n}\right) \tag{④}$$

ここから $|AM|$ を求め、それが $\sqrt{a_n \cdot b_{2n}}$ に等しいことを 4 ステップで確かめる。

Step 1:$|AM|$ を求める。 式④ に半角公式 $1-\cos\theta = 2\sin^2(\theta/2)$ を適用する。

$$|AM|^2 = 2r^2\!\left(1-\cos\frac{\pi}{n}\right) = 2r^2 \cdot 2\sin^2\frac{\pi}{2n} = 4r^2\sin^2\frac{\pi}{2n}$$

$\sin(\pi/(2n))>0$ だから平方根を取ると

$$|AM| = 2r\sin\frac{\pi}{2n} \tag{⑤}$$

Step 2:$a_{2n}$ と一致することを確認。 式⑤ より内接正$2n$角形の一辺は $|AM| = 2r\sin(\pi/(2n))$。$2n$ 辺あり、直径1の円では $r=1/2$ なので

$$a_{2n} = 2n \cdot |AM| = 2n \cdot 2 \cdot \frac{1}{2} \cdot \sin\frac{\pi}{2n} = 2n\sin\frac{\pi}{2n} \quad \checkmark$$

Step 3:$a_n \cdot b_{2n}$ を展開する。 $a_n = n\sin(\pi/n)$、$b_{2n} = 2n\tan(\pi/(2n))$ を代入する。

$$a_n \cdot b_{2n} = n\sin\frac{\pi}{n} \cdot 2n\tan\frac{\pi}{2n}$$

ここで倍角公式 $\sin(\pi/n) = 2\sin(\pi/(2n))\cos(\pi/(2n))$ を使う。

$$= n \cdot 2\sin\frac{\pi}{2n}\cos\frac{\pi}{2n} \cdot 2n \cdot \frac{\sin(\pi/(2n))}{\cos(\pi/(2n))}$$

$\cos(\pi/(2n))$ が分子・分母で打ち消される。

$$= 4n^2\sin^2\frac{\pi}{2n}$$

Step 4:平方根を取る。 右辺は式⑤ の 2乗に $n^2$ を掛けたものなので、

$$\sqrt{a_n \cdot b_{2n}} = \sqrt{4n^2\sin^2\frac{\pi}{2n}} = 2n\sin\frac{\pi}{2n} = a_{2n} \quad \checkmark \quad \text{(式②が成立)}$$

なぜ $\cos(\pi/(2n))$ が消えるのか、幾何的に言い換えれば:内接弦 $|AM|$ の長さには「弧を二等分した角度の余弦」が含まれているが、同じ量が外接接線の長さ $b_{2n}/(2n) = \tan(\pi/(2n)) = \sin(\pi/(2n))/\cos(\pi/(2n))$ の分母にも現れる。両者の積を取ると $\cos$ が相殺し、$\sin^2$ だけが残る完全平方になる。これが平方根(幾何平均)を自然に生み出す構造的な理由である。

アルキメデスが辿ったであろう幾何的論証(比とピタゴラスの定理)

アルキメデスの時代に sin・cos・tan という関数の体系はない。彼が使えたのは「直角三角形の辺の比」と「ピタゴラスの定理」だけである。以下では、三角関数を一切使わずに外接・内接の漸化式を導く。

外接側。 図の記号を整理する。

  • $r$ :円の半径($= OT_0$、定数)
  • $p$ :外接正$n$角形の半辺($= T_0A$、既知)
  • $d$ :中心から頂点 $A$ までの距離($= OA$)。ピタゴラスの定理より $d = \sqrt{r^2 + p^2}$
  • $p’$:外接正$2n$角形の半辺($= T_0P$、これを求めたい

弧の中点 $M$ に引いた接線が頂点 $P$ を作るとき、$OP$ は $\angle T_0OA$ をちょうど二等分する。角の二等分線と対辺の定理「二等分線は対辺を両隣の辺の比に分ける」を $\triangle OT_0A$ に適用すると

$$\frac{T_0P}{PA} = \frac{OT_0}{OA} = \frac{r}{d} \quad \cdots (*)$$

$T_0P + PA = T_0A = p$ という関係もある。$(*)$ の比から $PA = T_0P \cdot \dfrac{d}{r}$ と書けるので、これを代入すると

$$T_0P + T_0P \cdot \frac{d}{r} = p$$

$$T_0P \left(1 + \frac{d}{r}\right) = p$$

$$T_0P \cdot \frac{r + d}{r} = p$$

$$p’ = T_0P = \frac{pr}{r + d} \qquad \left(d = \sqrt{r^2 + p^2}\right)$$

これが外接正$2n$角形の半辺であり、sin・cos・tan を一切使わず $r$・$p$ だけで書ける。現代の記法では $p = r\tan\theta$・$d = r/\cos\theta$ を代入することで式③ の $\tan(\theta/2)$ に一致する。

O T₀ M P A r d p’ = pr/(r+d) p (半辺) T₀P : PA = r : d ∴ p’ = pr / (r+d) n角形の半辺 T₀A = p 2n角形の半辺 T₀P = p’

内接側。 内接正$n$角形の一辺を $|AB| = c$、$N$ を弦 $AB$ の中点とする。$ON \perp AB$($\triangle OAB$ は二等辺三角形なので $ON$ は垂直二等分線)。

ピタゴラスの定理を $\triangle ONA$ に適用すると

$$|ON| = \sqrt{r^2 – \left(\frac{c}{2}\right)^2}$$

弧 $AB$ の中点 $M$ は、弦 $AB$ の垂直二等分線($= ON$ の延長線)上にあり、$|OM| = r$ だから

$$|MN| = r – |ON| = r – \sqrt{r^2 – \frac{c^2}{4}}$$

$\triangle ANM$ の直角($\angle ANM = 90°$)に再びピタゴラスの定理を適用する。

$$|AM|^2 = \left(\frac{c}{2}\right)^2 + |MN|^2 = 2r\!\left(r – \sqrt{r^2 – \frac{c^2}{4}}\right) \tag{④’}$$

これが $2n$ 角形の一辺を $n$ 角形の一辺 $c$ と半径 $r$ だけで書いた純粋に幾何的な式である。sin・cos・tan は一切登場しない。

O A B M N (AB の中点) r c/2 |ON| |MN| |ON| = √(r²−(c/2)²) ← ピタゴラス |MN| = r − |ON| |AM|² = (c/2)² + |MN|² ← ピタゴラス n角形の辺 AB 2n角形の辺 AM

アルキメデスの幾何的論証が直接導くのは式④’ であり、ピタゴラスの定理を2回適用するだけで完結する。これが式⑤($|AM| = 2r\sin(\pi/(2n))$)と等しいことは、$c = 2r\sin(\pi/n)$ を代入して代数的に確かめられる。幾何が④’ まで辿り着き、代数がそれを式②の形に読み替える、という2段構えになっている。


3. 2つの平均の組み合わせの妙

順序の必然性

漸化式の順序は「まず調和平均で $b_{2n}$ を更新し、次にその $b_{2n}$ を使って幾何平均で $a_{2n}$ を求める」という一方向である。この順序には明確な必然性がある。

$b_{2n}$ は $a_n$ と $b_n$ のみに依存するので、先に計算できる。一方 $a_{2n}$ は $a_n$ と $b_{2n}$ を必要とし、$b_{2n}$ が確定していなければ計算できない。依存関係の向きが一方通行であることが、「外接 → 内接」という順序を強制している。

順序を入れ替えるとどうなるか

仮に「先に内接を更新する」とすれば、$a_{2n}$ に必要な $b_{2n}$ がまだ存在しない。$b_n$ のままで代用すると

$$a_{2n}^{(\text{間違い})} = \sqrt{a_n \cdot b_n}$$

という式になるが、$\sqrt{a_n b_n}$ は $a_n$ と $b_n$ の幾何平均そのものであり、$a_{2n}$ の正しい値($= 2n\sin(\pi/(2n))$)より大きい値を与える。すなわち内接側の周長を過大評価してしまい、$a_{2n} < \pi$ という不等式の向きが保証されない。

両方を調和平均にしたら

$b_{2n} = 2a_nb_n/(a_n+b_n)$(調和平均)、$a_{2n} = 2a_nb_{2n}/(a_n+b_{2n})$(調和平均)と置くと、$a_{2n}$ を $\sin$ と $\tan$ で計算すれば

$$a_{2n}^{(\text{HH})} = \frac{2 \cdot n\sin x \cdot 2n\tan(x/2)}{n\sin x + 2n\tan(x/2)}$$

これを整理すると $2n\sin x \cdot \tan(x/2) / (\sin x/2 + \tan(x/2))$ となり、$2n\sin(x/2)$(正しい値)とは一致しない。数値的には正しい $a_{2n}$ より小さくなり、内接側を過小評価する。不等式 $a_{2n} < \pi$ は維持されるものの、下限が必要以上に保守的になるため収束が著しく遅くなる。

両方を幾何平均にしたら

$b_{2n} = \sqrt{b_n \cdot (\text{何か})}$ と書こうとしても、幾何平均は「何と何の平均か」が自明でない。強引に $b_{2n} = \sqrt{a_n b_n}$($a_n$ と $b_n$ の幾何平均)とすると

$$b_{2n}^{(\text{GG})} = \sqrt{n\sin x \cdot n\tan x} = n\sqrt{\sin x \tan x}$$

これと正しい $b_{2n} = 2n\tan(x/2)$ を比較すると、一般に $\sqrt{\sin x \tan x} \neq 2\tan(x/2)$ であり($x=\pi/3$ で確認すると左辺 $\approx 0.930$、右辺 $\approx 1.155$)、外接側の更新として意味のある幾何的操作に対応しない。加えて $a_n < b_{2n}^{(\text{GG})} < b_n$ の保証もないため、挟み撃ちの構造自体が崩れる。

まとめると、調和平均・幾何平均というこの組み合わせは、幾何の構造から必然的に決まるものであり、それ以外の組み合わせは挟み撃ちの論理的保証か収束速度のいずれか(またはその両方)を失う。


4. 具体的な数値追跡($n = 6$ から $n = 96$)

漸化式を実際に回した結果を示す。値は小数第6位まで(理論値 $a_n = n\sin(\pi/n)$、$b_n = n\tan(\pi/n)$)。

$n$ $a_n$(内接) $b_n$(外接) $b_n – a_n$ 前幅との比
6 3.000 000 3.464 102 0.464 102
12 3.105 829 3.215 390 0.109 561 1/4.23
24 3.132 629 3.159 660 0.027 031 1/4.05
48 3.139 350 3.146 086 0.006 736 1/4.01
96 3.141 032 3.142 715 0.001 683 1/4.00

参考:$\pi = 3.141\,592\,653\ldots$

収束のオーダー

表の「前幅との比」列から明らかなように、辺数を2倍にするたびに挟み撃ちの幅は約 $1/4$ に縮む。これは2次収束(ステップ数に対して指数的)ではなく、$n$ に対して $b_n – a_n \sim C/n^2$ という形の収束であることを意味する(実際 $b_n – a_n = n(\tan(\pi/n)-\sin(\pi/n)) \approx \pi^3/(6n^2)$)。辺数を4倍にするたびに精度が1桁向上する計算になる。

0.5 0.1 0.01 0.001 6 12 24 48 96 n(辺数) — 縦軸は対数スケール、$b_n – a_n$ の縮み方

グラフは対数スケールでほぼ直線になっており、$b_n – a_n \propto 1/n^2$ の冪乗則に従った収束が見てとれる。


5. 平方根との関わり

幾何平均ステップが計算の核心

漸化式の2本を見比べると、平方根が現れるのは内接側(幾何平均)のみである。外接側の調和平均は四則演算だけで完結する。したがって倍化を1ステップ実行するたびに、正確に1回、平方根の有理数近似を用意する作業が要求される。6→12→24→48→96 の4段階で合計4回の平方根計算が積み上がる。

各ステップで必要な精度の推定

最終結果 $223/71 < \pi < 22/7$(誤差幅 $\approx 0.002$)を得るためには、最後の段階での $b_{96} - a_{96}$ がその幅以下でなければならない。表より $b_{96} - a_{96} \approx 0.00168$ なので、最終段階の有理数近似の誤差は少なくともこれより小さく抑える必要がある。

誤差伝播を逆算すると、初期の $\sqrt{3}$ の近似誤差 $\epsilon_0$ は最終的に約 $4^3 \approx 64$ 倍程度に増幅されて現れる。アルキメデスが使った

$$\frac{265}{153} < \sqrt{3} < \frac{1351}{780}$$

の誤差幅は $1351/780 – 265/153 = (1351 \cdot 153 – 265 \cdot 780)/(780 \cdot 153) = (206703 – 206700)/119340 = 3/119340 \approx 2.5 \times 10^{-5}$ である。これを64倍しても $\approx 1.6 \times 10^{-3}$ 程度で、最終誤差幅 $0.00168$ に整合する。$265/153$(分母3桁)という精度の選択は偶然ではなく、最終結果の誤差を $0.002$ 以下に収めるための必要十分な精度だったと読める。


6. 関連する話題(概観)

算術幾何平均(AGM)との類似と相違

算術幾何平均(AGM)は2数 $a$, $b$ から出発し

$$a_{n+1} = \frac{a_n + b_n}{2}, \quad b_{n+1} = \sqrt{a_n b_n}$$

という反復を繰り返し、両者が共通の極限 $\text{AGM}(a,b)$ に収束するものである。アルキメデスの漸化式と比べると、算術平均の代わりに調和平均が使われている点と、次ステップの幾何平均が更新後の調和平均を参照する点が異なる。AGMは2次収束(反復のたびに有効桁数が約2倍)するのに対し、アルキメデスの漸化式は $n$ に関して $O(1/n^2)$ 収束であり、収束速度の面では大きく劣る。

ガウス・ルジャンドルのアルゴリズムへの繋がり

1970年代にBrent・Salaminによって独立に発見されたガウス・ルジャンドル型のπ計算アルゴリズムは、まさにAGMを核に持つ。

$$a_{n+1} = \frac{a_n + b_n}{2}, \quad b_{n+1} = \sqrt{a_n b_n}, \quad t_{n+1} = t_n – p_n(a_n – a_{n+1})^2$$

という反復から $\pi \approx (a_n + b_n)^2 / (4t_n)$ が2次収束で得られる。アルキメデスの「内接・外接で挟む」発想の延長線上に、適切な項を追加することで指数的に速い収束を引き出した形である。

現代でも「内接・外接で挟む」発想が活きる場面

内接・外接による挟み撃ちは、数値積分における台形公式(過大評価)とシンプソン公式(精度向上)の関係、あるいは有限要素法での上下限定理(応力は外側から、変位は内側から挟む)など、現代の数値解析でも構造的に継承されている。「片側からの近似では誤差の大きさが確定しないが、両側から挟めば誤差を制御できる」という原則は変わっていない。


まとめ

  • 外接側の漸化式 $b_{2n} = 2a_nb_n/(a_n+b_n)$ は、半角の公式 $\tan(x/2) = \sin x/(1+\cos x)$ から厳密に導かれる調和平均である。
  • 内接側の漸化式 $a_{2n} = \sqrt{a_n \cdot b_{2n}}$ は、倍角公式と $\cos$ の約分から導かれる幾何平均であり、平方根の計算が不可欠になる。
  • 「外接 → 調和平均 → 内接 → 幾何平均」という順序は依存関係の一方向性によって強制されており、入れ替えや別の平均による代替は挟み撃ちの保証か収束速度を損なう。
  • $n=6$ から $n=96$ の4ステップで挟み幅は $0.464$ から $0.00168$ へ、ほぼ $1/4^4 = 1/256$ に縮む。これは $b_n – a_n \propto 1/n^2$ という収束則に対応する。
  • アルキメデスが選んだ $\sqrt{3} \approx 265/153$(誤差 $\approx 10^{-5}$)は、最終誤差 $0.002$ を達成するための最小限の精度に整合している。
  • この漸化式の構造はAGMを経由してガウス・ルジャンドルのπ計算アルゴリズムへと発展し、現代の高精度π計算の源流の一つをなす。

円周率の小数点ってどうやって導き出していたの?GPTに説明してもらった
計算機も小数表記もない時代、アルキメデスは円に内接・外接する正多角形の周長で円周率πを挟みました。正六角形から96角形へ辺数を増やし、平方根を分数で評価しながら 223/71 &lt; π &lt; 22/7 を導く考え方をわかりやすく解説します。

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